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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)502号 判決

上告人 保全経済会こと伊藤斗福

破産管財人 長瀬秀吉 外四名

被上告人 日本橋税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告理由第一、二点について。

原判決が、本件源泉徴収所得税徴収決定は所得税法一条二項三号、 四二条第三項、同法施行規則一条の解釈を誤り、源泉徴収の対象とならない利息の支払について徴収決定をした違法があるとしながら、判示の理由により、右決定はその徴収の対象を誤つた点については重大な瑕疵があるといえるにしても、その瑕疵は「客観的に明白」なものではないから、右澱疵は抗告訴訟により本件処分を取消すべき原因には該当するが、右瑕疵の故に本件処分をもつて法律上当然に無効とすることはできないとしたのは、正当である。所論は、独自の見解に立つて原判決の判断を非難するものに過ぎず、採用することはできない(昭和二六年(オ)第八九八号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決、民集九巻一四号二〇七〇頁、昭和二五年(オ)第二〇六号、同三一年七月一八日大法廷判決、民集一〇巻七号八九〇頁参照)。論旨は、また原判決にいう「客観的に明白」の意味、内容は不明であるというが、その意味、内容共に原判決の説述するところによれば極めて明瞭である。その余の論旨は、右判示の基礎となつた原判決の事実認定を非難するもので、適法の上告理由とならない。

同第三、四点について。

原判決は、本件徴収決定は違法であり、かつその瑕疵は重大であるけれども、右の瑕疵は「客観的に明白」ということはできないから、右決定をもつて法律上当然に無効とすることはできないとするものであり、その「客観的に明白」といえないとする判示の正当であることは、前点説示のとおりである。また論旨は、本件徴収決定は憲法三〇条、八四条に違反する故に絶対無効であるという。しかし、原判決の確定した事実によれば、本件徴収決定は所得税法四二条三項にいう源泉徴収義務者でない者に対してなされたものであるというのであつて、右は同法条の解釈をあやまつた違法ありというに過ぎず、所論違憲の問題を生ずる余地はないというべきである。されば、原判決が前記違法をもつて憲法の右各規定に違反するものと判示したのは無用の論をしたことに帰着するのみならず、前記瑕疵は重大であるとしても、「客観的に明白」という要件を欠如している以上本件徴収決定をもつて法律上当然に無効とすることはできないとする原判決の判断は、窮極において正当といわなければならない。

論旨は、その前提を欠くか、独自の見解にもとづいて原判決を非難するものであつて、すべて採用することはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 奥野健一 山田作之助)

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